仕組債のおもひで

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

 

ネットニュースでこんな記事を見かけた。

 

president.jp

 

EB債がボロクソぶっ叩かれていて苦笑する一方で、「まあ、そうだよな…」とも。

そこで、かつて銀行でEB債を顧客に販売していた知人から聞いた話をつらつら書いていこうという次第である。

 

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Q.「ぼったくり」と認識している商品を顧客に売りつけることに罪悪感はないのか?

 

A.お客さんに申し訳ないとは思うけど、だって上司に「売れ」って言われるんだもん。

 

これである。EB債の割が悪いのはエグすぎる手数料率(顧客にはブラインドされているのでわからない)によるものだ。あとノックインのヤバさを顧客があまり認識していないこともある。まあそれはそういうお客さんに売り込んでいるので当たり前といえば当たり前なのだが。

ともかく、そうしたことを認識しながら老人や投資初心者相手にこんな阿漕な商品を売りつけるなんて、販売員には人の心がないのか!と思われる方も多かろう。

そこで下の図を見ていただきたい。

 

おおむね営業のすべてに共通することだが、販売員はこういうメカニズムのもと働いている。「いや、売りたくないっす…」とささやかな抵抗を支店長に試みても「でも他店は売ってるよ? ほかの人はできてるのに君にできない道理なくない?」のマジックワードで完全に言論封殺である。だからぼったくっても許してよ、ということではないが、そうした背景があるということである。

 

 

Q.EB債は複雑だから銀行員も仕組みがわかってないっていうけど、

 ほんとにわかってないの?

 

A.

まあ正確に言うとまったくわかってないわけではないのだが、プットオプションがどーたらこーたらとかは正直よくわかんない。「ブラック-ショールズ モデル」とやらに至っては完全に意味不明理解不能である。

実際売るときは、「”利回りの安定した”いい商品がありますよー、でも経済の流れによっては株で戻ってきちゃうので注意してくださいね、でも株で戻ってきても大丈夫!v^^ 株価が上がるまで株のまま持っといていただければ損しませんから」みたいな説明とあふれ出るパッションでゴリ押す。

実際には、銀行員単独でこの商品を販売することはできない為ため証券会社の営業と一緒に顧客へ訪問して売買契約を締結するのだが、実際説明聞いててもよくわかってなさそうなお客さんばかりだった。わかってたら買わねえよ!と言われるとつらいところだ。

 

Q.なんでこんな商品を銀行は販売するのか?

 

A.手数料が高いのと、期限前償還が回転売買に都合がいいから。

 

なぜこんなもんを売るのか、という疑問に答えるためには簡単にノルマの仕組みを説明する必要があるだろう。銀行によってノルマの種類は様々だろうが、知人がいた銀行で営業に課されていたノルマは「手数料ノルマ」だった。例えば手数料率3%の商品を1,000万円販売すると受取手数料は30万円。その30万円が営業成績として反映される、というわけである。

このノルマが半期でざっくり500万だとすると、どうだろう。仮に手数料率3%の商品で目標達成しようと思ったら、6ヶ月で1億6千600万の金融商品を売ってこなければならない。

もちろん、集金や各種ローン、クレジットカードや積立投信等々のノルマもこなしながらだ。これは正攻法ではなかなか難しい。そうそう都合のいいお客さんや預金が転がっているわけでもあるまいし。

アプローチは絞られてくるわけだが、とりわけ効率がいいのが「手数料率の高い商品」を「同じ顧客に回転売買する」ことである。これをかなえてくれる夢の商品がEB債だ。

EB債にはたいてい「早期償還条項」が付帯されており、商品組成時に使用した株価が上昇し規定ラインを超えると、満期前でも元本償還になる。その元本をもとに、また新しい商品があるのですがいかがですか…というわけである。

むろん、株式市場も常に順風というわけではないので、こんな回転売買を繰り返していればいつかはノックイン条項にはまるのが目に見えてはいるのだが、わかっていても止まれない。上図のメカニズムによる支配がはたらき、ノルマの首輪をつけられているからだ。

 

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金融庁がブチ切れて仕組債の販売を止めるよう動いているのはいい流れだと思う。

ただ、銀行員とて売りたくてこんなもんを売っているわけではないのだ。

こうした「ぼったくり商品」が横行している背景には、本業で儲からない銀行の悲哀がある。

景気が上向きになる展望が見えない以上、また新たな「ぼったくり商品」が蔓延るまでのことだろう。

 

だからまあ、気をつけようねって感じである。